「髪が変わると人生が変わる」。美容業界でよく言われる言葉です。若い頃の僕は、この言葉があまり好きではありませんでした。ちょっと大げさじゃないか、と。それが今は、本当だと思っています。ただし、当時思っていたのとは、まったく違う意味で。今日は、その話をします。
昔は、この言葉が苦手でした
20代の頃、僕は大手や中規模のサロンで働いていました。店長代理をしていた時期もあります。1日に何人も担当して、体力勝負の毎日でした。
その頃「髪が変わると人生が変わる」と言われても、実感が持てなかったんです。目の前のお客様の人生まで、自分が変えられるとは思えなかった。僕がしているのは髪を切ることで、そんな大層な仕事ではないだろう、と。
むしろ、その言葉を使う人にちょっと構えてしまっていました。仕事を大きく見せようとしているように聞こえて。
変わるのは、鏡を見る回数です
考えが変わったのは、独立してからです。1日3名までにして、一人ひとりとゆっくり話すようになって、やっと見えてきたことがありました。
髪が変わったとき、その人に起きているのは「きれいになった」ことではありません。鏡を見る回数が変わるんです。
くせ毛で悩んでいる方は、鏡を見るのが少し憂うつです。見るたびに、直したいところが目に入る。だから、なるべく見ない。朝の支度も、鏡の前を早く通り過ぎたい。
それが、髪がまとまるようになると、ふと鏡を見るようになります。エレベーターの壁、お店のガラス、車のサイドミラー。見ても嫌な気持ちにならないから、目をそらさなくなる。
一日に何回も、自分に対して小さくがっかりしていた人が、それをしなくなる。これは、けっこう大きいことだと思うんです。
自信は、大きな出来事では生まれません
人が自信を持つのは、何か大きなことを成し遂げたときだと思われがちです。でも僕が見てきた限り、そうではありません。
毎日の小さな引っかかりが、ひとつ減る。ただそれだけです。
湿気の日に憂うつにならなくて済む。急に人に会うことになっても慌てない。帽子で隠さなくていい。写真に写るのが嫌じゃなくなる。ひとつひとつは本当に些細なことです。でも毎日のことなので、積もると人の表情が変わります。
表情が変わると、人からの反応が変わります。反応が変わると、外に出るのが億劫でなくなる。ここまで来ると、確かにそれは人生と呼んでいい変化なのだと思います。
だから僕は、この言葉を今は素直に受け取っています。髪が人生を変えるんじゃなくて、髪が変わったことで、その人が自分に向ける目線が変わる。順番はそっちです。
変わらない日もあります
ただ、いいことばかり書くのはフェアではないので、正反対のことも書いておきます。
髪をきれいにしても、しんどい日はしんどいです。仕事の悩みも、家族のことも、髪では解決しません。「きれいになったのに、気持ちが晴れない」という日は、誰にでもあります。
そういうとき、僕は無理に元気づけないようにしています。サロンにいる2〜3時間、何も考えずにぼんやりしていただけでも、それはそれで意味があったと思うからです。
うちの店の名前は「Fermata」といいます。音楽で「一時停止」を意味する言葉です。物件を見た瞬間にここだと決めた場所で、住宅地のど真ん中にあります。名前にこの言葉を選んだのは、そういう時間を持ってほしかったからでした。
あるお客様の話
3年ほど前から通ってくださっている、当時40代前半のお客様がいます。初回のカウンセリングで、こう言われました。「私、もう10年くらい、まとめ髪しかしていないんです」。
くせが強くて、おろすと広がる。だから毎朝ひとつに結んで、それで終わり。10年です。10年間、髪をおろしていない。
縮毛矯正を続けて1年ほど経った頃だったと思います。その方が来店されて、髪をおろしてきました。特に何も言わずに、いつも通り座られたので、僕から「今日、おろされてるんですね」とだけ声をかけました。
そうしたら、少し笑って「娘に、お母さん髪おろしたら? って言われて」と。それから、こう続けられました。「10年ぶりにおろしてみたら、誰も何も言わないんですよ。自分だけが、ずっと気にしてたんですね」。
その日、僕は仕事終わりにひとりで、ずいぶん長いことそのことを考えていました。10年です。この仕事は、髪を扱っているようで、実は人が自分に許可を出すのを手伝っているのかもしれない、と思いました。
最後に
22年やってきて、僕がしているのは、やっぱり髪を扱う仕事です。そこは何も変わっていません。
ただ、その先で何が起きているかを、若い頃より少しだけ知りました。だから今は、月に50名という数を守っています。一人にちゃんと時間を使わないと、その先まで見届けられないからです。
髪を変えたところで、人生が劇的に変わるわけではありません。でも、鏡の前でため息をつく回数は、確実に減らせます。僕にできるのはそこまでで、そこは本気でやっています。
気になる方は、LINEで写真を送ってみてください。今の髪の状態に合わせた選択肢を、一緒に考えます。
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