HAIR KNOWLEDGE

市販のカラーと美容室のカラー、何が違うのか
——値段の差の中身

2026.07.31  |  Kazunori Kuwabara

ドラッグストアで1,000円ちょっと。美容室で1万円近く。同じ「髪を染める」なのに、なぜこんなに違うのか——気になったことはありませんか。技術料の差だと思われがちですが、実はいちばん違うのは、箱に入っている薬剤そのものです。今日はその中身の話をします。

市販のカラーは「誰の髪でも染まる」ように作られています

市販のカラー剤は、全国の誰が使っても、そこそこ染まらないといけません。髪が太い方も細い方も、白髪が多い方も少ない方も、同じ1箱で。

そのために薬剤は、どうしても強めに設計されます。いちばん染まりにくい髪に合わせておかないと「染まらない」という声が出てしまうからです。染まりやすい髪の方にとっては、かなり余裕を持って強い薬を使っていることになります。

美容室のカラーは逆で、その方専用に混ぜます。僕の場合、白髪の量、髪の太さ、前回のカラーの残り具合、これから縮毛矯正をかける予定があるかまで見て、薬の種類と強さを決めています。同じ色に見えても、お客様ごとに中身は違うんです。

美容師がお客様の髪を分け取りながら根元にカラー剤を塗っている手元

ムラになるのは、腕のせいじゃありません

市販で染めた方から「後ろがまだらになってしまって」と相談されることがあります。あれは不器用だからではなくて、条件がそもそも不利なんです。

髪は、根元と毛先で状態がまったく違います。根元は地肌の熱があって染まりやすく、毛先は過去のカラーの蓄積で染まりにくい。美容室では、根元と毛先で違う薬を使ったり、塗る順番と時間をずらしたりして、その差を埋めています。

市販の1本を全体に同じように塗ると、この差がそのまま出ます。根元だけ暗くなったり、毛先だけ色が抜けたり。カレーを煮込むときに、火の当たる鍋底だけ先に焦げるのと似ています。同じ鍋の中でも、場所によって進み方が違う。

それと、後頭部は自分では見えません。鏡越しに手を伸ばして塗るのは、目をつぶって壁にペンキを塗るようなものです。塗り残しが出て当然だと思います。

いちばん大きな差は、次の施術に出ます

ここが、僕がいちばんお伝えしたいところです。

市販のカラー剤には、色を長持ちさせるために、髪の内部に成分が残るタイプのものがあります。特に「黒染め」や「ダークブラウン」に多いです。この残留物は、シャンプーでは抜けません。

何が起きるかというと、次に明るくしたいときに明るくならない。縮毛矯正をかけたときに、薬の入り方が場所によってバラバラになる。壁紙の上に別の壁紙を重ね貼りするようなもので、下の状態がわからないまま次の作業をすることになります。

「1年前に市販の黒染めを1回だけ」という方の髪が、今も薬の効き方に影響していることは、めずらしくありません。そのときは何の問題もなく染まっているので、ご本人にはつながりが見えないんです。

自然光でツヤを帯びた、均一に染まったブラウンの髪のクローズアップ

それでも市販を使う日はあります

ここまで書いておいてなんですが、僕は市販のカラーを全否定していません。

白髪が伸びてきて、次の予約まであと2週間。明日どうしても人に会う。そういう日はありますよね。毎回美容室に来られるのがいちばんとは言えても、生活のほうが優先される場面は当然あります。

使うのであれば、いくつかコツがあります。まず、全体に塗らないこと。伸びてきた根元の白髪だけに、細かく塗ってください。毛先まで塗り広げると、そこがどんどん暗く沈んでいきます。

それから、放置時間を延ばさないこと。「もっと染まるかも」と長く置くと、髪の傷みだけが増えます。そして黒染めは、できれば避けてください。あとで明るくしたくなったときに、いちばん苦労するのがこれです。

そして次の来店のとき、市販で染めたことを教えてください。それだけで、僕らが選ぶ薬はまったく変わります。隠されるのが、いちばん困ります。

あるお客様の話

去年、初めて来られた40代のお客様です。「明るめのブラウンにしたいんです」というご希望でした。

髪を触ったら、毛先が不自然に硬く重い。お聞きすると、半年ほど前に市販の黒染めを1度されていました。ご本人は「ちゃんと染まったし、もう色も落ちたから関係ないと思っていました」とおっしゃいました。

色は抜けても、残った成分は毛先に居座ります。そのままご希望の明るさにしようとすると、かなり強い薬が必要になって、髪がもちません。なので、その日はワントーンだけ明るくして、色ムラを整えるところまでにしました。

3回目の来店で、やっと最初のご希望の明るさに届きました。そのとき言われた言葉が忘れられません。「あの1本のカラー剤に、1年かかったんですね」。責めるでもなく、笑いながらでした。1,000円と1万円の差は、実はその日の仕上がりよりも、こういうところに出るのだと思います。

カラー剤を混ぜたボウルと刷毛が並んだサロンの準備風景

最後に

市販のカラーは、悪いものではありません。よくできた製品です。ただ、誰にでも合うように作られているぶん、あなたの髪のために作られてはいない。その一点だけが違います。

急ぎの日は使ってかまいません。使ったら、次に会ったとき僕に教えてください。それだけで、この先の選択肢はずいぶん広がります。

気になる方は、LINEで写真を送ってみてください。今の髪の状態に合わせた選択肢を、一緒に考えます。

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桑原 和誠
桑原 和誠|Hair & Spa Fermata オーナー

美容師歴22年。縮毛矯正・髪質改善を専門に、船橋市宮本にてプライベートサロンを営む。「目の前のお客様に全力を」をモットーに、完全マンツーマンで施術を行っている。

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